朝日が差し込む窓辺で、いつものようにコーヒーを飲もうとする。
でも、隣にはもうモカの姿はない。
「モカ…」
思わず呟いてしまう。
モカがいなくなってから、まだ数日しか経っていない。
10年前、小さな子犬だったモカを迎え入れてから私たちは共に歳を重ねてきた。
毎日の散歩、休日のピクニック、穏やかな夜のソファでの時間。
そのすべてが、今は遠い記憶のようだ。
先週のことだった。
いつもと変わらない朝。
モカの様子がおかしいことに気付いた。
「モカ、どうしたの?具合悪いの?」
食欲がなくて、いつもの元気さがない。
心配になって声をかけるも、モカはただぐったりとしている。
獣医さんに診てもらったけど、「年齢的なものもありますし、様子を見ましょう」と言われた。
でも、モカの状態は良くならなかった。
数日後、モカの状態は急激に悪化した。
もう立つこともできず、水さえも飲もうとしない。
再び病院に駆け込んだ。
獣医さんの言葉が、遠くで聞こえているような気がした。
頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。
「どうして…こんなに急に…」
目の前で、モカの呼吸が弱くなっていく。
最後まで私の手を舐めてくれたモカ。
その温もりが、徐々に冷たくなっていくのを感じた。
「・・・・一体何が起きているの?」
生き物として当然の出来事。
きっと私自身にも家族にも、職場の人もこの町の人も全員訪れるであろう出来事。
誰にも避けられない。
避けることはできない。
でもこの時はどうしても避けたかった。
いや、頭ではわかっているけどわかっていなかった。
何が起きたのかさえわからなかった。
こんなにも人間は混乱するものなのかと感じた。
まさかこんなにも突然に。
家に帰ると驚くほどの静けさが私を包み込んだ。
モカのベッド、お気に入りのおもちゃ、食器…全てが、モカがいないことを物語っている。
「ただいま」
いつものように声をかけるも、もう迎えてくれる存在はいない。
胸が締め付けられるような痛みを感じる。
これが私なの?私が生きる現実なの?
感覚なんて全部無いよ。
もうわけがわからない。
仕事に行く気力もなくなって、休暇を取った。
友達からの電話にも出る元気がない。
たまに返すメッセージで許してもらった。
家にいても、モカがいた頃の日常が頭をよぎって、涙が止まらなくなる。
窓の外を見ると、雨が降り始めていた。
モカと一緒に散歩した公園が、頭に浮かぶ。
「モカ、今日はお散歩、行けないね…」
そうつぶやきながら、また涙がこぼれた。
これから先、どうやってモカのいない日々を過ごしていけばいいのか。
その答えが見つからないまま、静寂に包まれた家の中でただ時間だけが過ぎていく。
10年間の幸せな日々が、こんなにも突然に終わってしまうなんて。
モカがいない生活にどう向き合っていけばいいのか分からない。
モカのことを忘れたくない。
でも、この痛みは耐えられないほど大きい。
そんな思いが渦巻く中、雨の音だけが響く静かな部屋。
私は深い悲しみに包まれていた。
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